魔王が倒され平和になった世界。勇者軍の一員だった主人公は魔王戦で片脚と力のほとんどを失い、第二の人生を送るべく故郷に帰る。そこでダンジョンツアーを開催する会社でスタッフとして働くことにするが…

というわけで、元最強クラスの主人公が平和になった世界で「戦わない生き方」を受け入れていく話…なんですが。
面白くないわけじゃないんですよ?題材もそれなりに興味を持てる物が揃っています。でも物足りないんです!
何故なら…
タイトルから連想する物語は「ダンジョンツアーの様子をメインに描きつつ、このタダ者じゃない凄腕ツアコンは実は…」という感じに主人公の設定が明かされていく物語。
でも実際に描かれている物語は主人公の境遇に関するエピソード。中盤に至るまで主人公が書類仕事に忙殺される様子が描かれるばかりで、ちっとも「ダンジョンツアー」に出かけてくれません。

あと、ですね…。この本、薄いんですよ。物理的に。
その薄い…つまりはボリュームの少ない中に

・主人公の過去と現在の境遇
・ツアー会社に入ってからのアレコレ(社員紹介エピソード含む)
・実の弟との確執
・勇者軍時代に恨みを買っていた人物との確執

と、ガンガン盛り込んだ上、今後のシリーズ化を考えての仕込みと思われる

・主人公が禁術を手に入れた経緯の謎
・魔神と名乗る謎の敵との遭遇

というネタまでぶち込んであるんです。当然一つ一つのエピソードに割かれるボリュームはごく少なく、上っ面をなぞるだけ~な扱いになってしまっています。 特に勇者軍時代の恨み云々は無くても全く話に影響がないエピソードなのでサクっと削って、次巻以降があれば盛り込む、という扱いで良かったと思うのですよ。

結局、この「思いつくネタを全て盛り込んだ」ことが逆に物足りなさの原因になっているのだと思います。
要素をもっと絞って、例えば今回なら弟との確執から和解までを丁寧に描き、ラストの魔神絡みのあたりは「最近ダンジョンに異変が?魔王は倒したのに、まだ何かあるのだろうか…」程度に触れるに留めておいても良かったと思うのです。そうして盛り込む要素を減らす代わりに、タイトルでもあるダンジョンツアーをもう少し深く描写してツアー回数も増やして、「ダンジョンの異変」を読者にも感じてもらう、そういう方向ならもっと楽しめたんじゃないかなぁ…。
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