ある日突然異世界に来てしまった料理人の主人公。最初に出会った冒険者兼料理人に街まで連れてきてもらった彼は、自分に無限の魔力と地球から好きな物を取り寄せる魔法が備わっている事を知り、早速地球から自分の店をお取り寄せ。この街でも料理人としてやっていこうとするが…

というわけで、「異世界で日本の料理が大人気」もの。
まずは一言、「創造」という言葉に謝れ、と言いたいです。創造魔法なんて名前がついている主人公の能力ですが、やってることはただのお取り寄せ。それが悪いとは言わないけど、「創造」は違うだろう、と。

取り寄せは異世界系作品で最近増えているスキルですが、大体は「お金がいる」とか「レベルアップしないとこれ以上の物は取り寄せられない」とか、制限が付いているものです。この作品でも一応「取り寄せる物によって相応の魔力が必要」という制限が設けられてはいますが、主人公が最初から「魔力無限」なんていう設定になっているせいで、制限が制限として機能していません。

さらに、この作品は作者の知識不足が目立ちます。自分の店を取り寄せた際「電気はソーラー発電だからこの世界でも使えるぜ」とドヤ顔で説明が入りますが、続いて「同様に水道やガスもなんとかなっている」って…それ辻褄の合う設定が思いつかなくて描写を逃げたんですよね?なら最初から変にソーラーが…とか理由付けせずに「取り寄せる時電気もガスも水道も使えるようにイメージしたらできちゃった。魔法凄い」で良かったじゃないですか。魔法なんだから。

肝心の料理も、せっかく異世界なのに地球の食材を取り寄せてオーソドックスな料理を出すだけで、主人公独自のアレンジが一切ないですが、仮にも自分の店を持っていた料理人でそれはどうよ?異世界の食材を使ってオリジナル料理を作ってこそ「創造の料理人」でしょう。
「取り寄せスキル×料理」といえば最近では「とんでもスキルで異世界放浪メシ」がありますが、あちらは「家族に出す日常のごはん」なので市販の調味料頼りだろうがインスタント使おうが同じメニューを何度も出そうが構わないんです。家庭料理ってそういうものだから。でもこちらは商売でしょ?プロの料理人でこれはないです。資金が無かった最初のうちは取り寄せに頼るにしても、ある程度資金が出来たらこの世界の食材に興味を示さなきゃ料理人じゃないですよ…。「とんスキ」だってメインの食材は異世界の食材使ってるし、新しい食材を見て「これはどんな味かな。どんな料理法がいいかな」って主人公は楽しく試行錯誤してるのに…。

どうもこの作者さん、実際に自分で料理はしない人なんじゃないかな?
料理を出してから味噌汁が無かったことに気付いて作る場面があるんですが、「一人分だからすぐ出来た」って、インスタントならともかく、ちゃんと作る味噌汁ってダシが必要なんですよ?既に出来ている料理が冷める前に作り上げるなんて無理があります。まさかプロの料理人がインスタントは出さないでしょ?
他にも「メニューは決めないで、客が食べたいと言ったものを作る」って…料理には下ごしらえというものが必要だということを知らないとしか思えません。もし客がシチュー食べたいって言ったら、そこから煮込み始めるんですか? 下味つけて一晩寝かせるのが必須の料理を指定されたらどうするの?

あと気になるといえば「洋食と中華は出したけど和食はまだ」みたいな独白があるんですけど、料理人が一人で回す店でノンジャンルの店は普通はあまりないんですよね。例えばフレンチと中華では使う食材も調味料も調理器具も全然違うので、一人しか料理人がいない店では食材ロスをなくすためにもジャンルを絞るのが普通で、主人公の店はフランス語の店名なので洋食メインのお店、という方が自然なんですけど、どうやらこの作者さんは描写から見て「レストラン=ファミレス」というイメージを持っているみたいですね。執筆に当たって下調べとか勉強とか一切しないで、自分の持っているイメージとネットで拾ったレシピだけで突っ走ってる感じです。

主人公の設定が「自分の店を持っているプロの料理人」じゃなくて「ちょっと料理が得意なだけの一般人」だったらここまで気にならなかったんですけど…。これはもう設定ミスというか、設定に見合った話が作れていないと言わざるを得ない出来栄えの作品でした。