庶民の父に似た容姿のせいで元貴族の母から愛情を得られず、家政婦扱いされていた主人公。奨学生の権利を勝ち取ったのに「妹の学費のために働け」と命じた母に長年溜まった怒りが爆発し、家出を決行する。仕事を得やすいのは王都だろう、と旅を始めた主人公はその途上で魔術師ザクと出会い、自分がレアな浄化の力を持っていると知らされて…

というわけで、家族に蔑ろにされた主人公が大切にしてくれる新しい家族を得て幸せになる話。物語の質としては悪くないですが、タイトルが全然中身に合ってないです。このタイトルならもっとサバサバ元気系主人公が破天荒に頑張る話っぽいよね…。

とりあえず、王家の呪いから神話時代の因縁にまで話を広げるには一冊ではキツキツです。どう見ても一冊完結の話なので、もっと不要な部分を削らないと…。
主人公とザクが出会ってすぐの頃の十字島探索エピソードは児童文学のようで楽しかったんですが、ここでのアレコレが後の展開に全く絡んでこないんですよね。火喰い竜の子供をせっかく手懐けたんだから、後の冒険のお供にするなり最後の堕ちた女神との対決に一役買ってもらうなりしてたら盛り上がっただろうし、このエピソードにも意味が持たせられたのに。
逆に魔法師団に入ってから出会った仲間達との描写は物凄くおざなりなんですよね。「すっかり打ち解けたよ」の一言で済まされちゃってますし。そうじゃなくて、それぞれのメンバーとのやりとりを具体的に見せて下さいよって感じ。主人公から見た描写が適当に続くだけで、まるで日記を読まされてるようというか、仲間達が生きた人間という感じがしないんですよ…。終盤の展開に絡まないなら子供の頃のエピソードはごっそり削って、こちらの描写に力を入れた方が良かったと思うのですが。前半と後半の力の入れ具合の差が激しすぎる…。しかも力を入れるべき後半ではなく前半に力が入り過ぎてるせいでラストの展開が淡泊に感じられてしまいます。

あと、閑話の形で主人公の実の家族達(父・兄・妹)のその後が多少フォローされているけど、肝心の母親がちゃんと反省したのかが不明なんですよね。父は後悔してたし兄妹は母の教育が間違っていたことに気付いて反省してたけど、母のその後については触れられていないし、虐げていた娘が聖女と呼ばれるまでになったことにも気付いてないみたいだし、色々と消化不良…。


全体的に、書きたいことを取捨選択することなく全て書いたせいで逆にどの分野も物足りない、という結果を招いた作品としか言いようがないですね。何冊かかけてじっくり書くなら子供時代の楽しいエピソードを存分に語るのも良いのですが、一冊完結なら余計な要素は取っ払ってメインの魔法師団入団後をもっと丁寧に書いて欲しかったです。タイトルで「実は」とか主張するほど転生者設定は仕事してないし、なんか色々と勿体ない作品でした。




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