とある有名ギルドで唯一の錬金術師として連日激務をこなしていた主人公。ギルド長には無能と罵られながらも「育ててくれた恩人だから」と働いていた主人公だが、更なる無茶振りをされたある日「そんなに迷惑をかけているなら辞める」と申し出る。その後、化学者として働いて過労死した前世を思い出した主人公は、前世の知識が錬金術にも応用できることに気付き、自分で新たにギルドを立ち上げることを思いつく。主人公の作る薬を愛用していた凄腕探索者、素材の選り好みは激しいが凄腕の鍛冶師、薬品作りに役立つ能力を持つスライムを多数使役するテイマー、そして仕事漬けで常識に疎い主人公の知識面をサポートする補佐役といった面々をギルドメンバーに迎えて活動を始めた主人公のギルドは他の追随を許さない高品質な商品を揃え、口コミでどんどん評判が広がっていく。一方、主人公が抜けた元のギルドは質の良い錬成品を提供できなくなったことで評判を落としていて…

というわけで、ありがち追放ざまぁもの。
タイトルの「化学者」はわざわざ「ケミスト」と振り仮名振ってますが、これ「あるケミスト(化学者)」と「アルケミスト(錬金術師)」をかけたタイトルですね。

内容そのものは、いわゆる「よくある話」です。ただし厳密には「追放」ではなく「自主的な退職」だし、元のギルド長は主人公の能力を理解できてないとか本当に無能と思っていたとかではありません。有能であることも凄腕であることも充分に理解した上で、主人公自身にはそれを悟らせないように行動して囲い込んでただけです。なぜなら主人公を相場より遥かに低い賃金で働かせるために、外に出て一般常識を身に付けられたら困るから!
しかも対外的には「凄腕の錬金術師である主人公には経費も研究費も潤沢に与え、特別待遇で優遇している」と吹聴して、他者から引き抜きをかけられないように予防線を張る周到さ。…なかなかに悪どいですね。

主人公は元のギルドを出て初めてそういった諸々を知ることになるわけですが、ある意味「有能であることはギルド長お墨付き」と認識されていたおかげで新ギルドを立ち上げる話も「独立ですか、当然ですね」と受け止められたんだから結果オーライともいえますね。

元のギルド長によって、ある意味純粋培養で育てられた主人公なので、前世の記憶が蘇らなかったら、そういう諸々を知っても”搾取されていた”という事実に気付かない可能性があったあたりがなんとも…。
前世の記憶があって良かったですね。いろんな意味で。

物語の展開的には基本に忠実で元のギルドの妨害工作やら錬成品対決やらも意外性はなく、特にハラハラもドキドキもしませんでしたが…まあ可もなく不可もなく。人物の個性なんかはきちんと描けていたし、ギルドの仲間達にも特に不快な点はありませんでした。悪役もちゃんと悪役してますし。
凄く面白い、というほどではないけど、面白くないとは思わなかったので…まぁ及第点かな。


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